【50代から始める登山】こだわり満載の登山で疲れ知らず

近代以降の登山はスポーツの一環として発展してきました。それはその通りですが、ただ山を登って、頂から下ってくるだけでいいのだとすると、少し寂しい気もします。学校を卒業して山行きを強制されなくなると遠ざかってしまう人が多いのも、このためかも知れませんね。

武蔵御嶽山はお犬さま信仰の山として有名です。観光地として開発され尽くしたとは言えない要素が山の中のあちこちに見られます。ここは伝統と現代とが錯綜した空間を残している場所なのでしょう。

西洋科学が絶対的強度をもち始めた明治時代まで、オサキ信仰(狐憑き)群馬を中心にして関東一円に広がっていました。オサキが憑くと飛び跳ねたり、大食になってひたすら食べ続けたりしだしたそうです。

このような現象を生じた人を後の文化人類学者の調査研究では、精神的発作として、あるいは精神病の発症であると認識されていたと伝えています。昭和初期までにこれらの現象は迷信だと断じられるようになっていたのです。

しかし、日本全国にオサキなどの憑きもの信仰が存在していたのは紛れもない事実でしょう。さまざまな伝承と結びつきまた分かれて新たな伝承を作り出しながら、伝播していたのかもしれません。

オサキは九尾の狐のなれの果てとする伝承があります。中国伝来の妖怪が、平安末期に鳥羽上皇の寵姫だった玉藻の前に化けていたともされますが、退治された時に九つのしっぽが日本中に飛び散ってオサキになったと伝えられています。

農村のブームであったカイコ養殖と投機熱が貧富の差を生み、従来の社会構造を脅かした背景との関連が指摘されたりもします。確かに権威構造が変化すると社会的ストレスが生じる原因のひとつになるでしょう。

新興の村に異文化交流が起こした現象であったと考えることも可能です。家単位で入村した人たちが多い場所には比較的憑きもの伝承が多かったようにも見えるからです。新興の村にはさまざまな文化背景をもった人たちが集まっていたと考えられます。

そのような怪異があれば対策もしっかりとあるもので、オサキが付くと、オオカミのお札を頂いて追い払うというのがならいになっていたようです。村によってはそのためのお札の作成方法まで伝わっていたという報告もありました。

群馬などでは関東修験者が加持してお札を提供していたのが通例のようです。今の埼玉県の山にはそのような修験者が修行したとされる場所が複数箇所認められます。場所の数は需要の大きさを伝えています。

早くに日本ではオオカミが絶滅してしまいました。単なる迷信だというのであれば、絶滅は関係ないはずだと思うのですが、オオカミが絶滅した後、山犬や犬を神体として扱うようになりました。そこには文化的な論理整合性が必要なのでしょう。

今でも札の中心に犬の姿があしらわれている御嶽山の札を現地で見られます。宿坊には本格的な祭壇が設えられており、そこでお札を祭って加持するようです。犬と言われればそのように見える程度にデザイン化されていて、むしろお札としての雰囲気が大切にされているような気もします。

歴史・文化背景に目を配ると山と人との関わりが感じられます。歴史が変化すると文化にも変化が生じますが、その変化は単一ではない対応を示します。文化現象には人間の認識作用が大きく影響していて、学習済みの行動様式を変化させるのに時間が必要だからだともいいます。

ふと山の上で感じたのは、御岳講は江戸時代旅行の形式だったのかも知れない印象です。路地のように混み合った参道は狭く先の見通しが効きません。両脇に宿坊が通路に迫っているからです。このように宿坊は今も現役の御師の宿として営業しています。

ハイキングなり低山登山を始めるならどの季節を選ぶべきでしょうか?どの季節でもそれなりの楽しみがあり、日本は四季を通じてさまざまな環境を楽しむことができるのですが、夏を迎えるこれから季節に登山を始めるのが一番おすすめです。

なぜなら揃えるべき用具が一般的なものでよいはずだからです。登山用具は日常使わないものも多く、全部揃えるとなるとそれなりの出費を覚悟しなければなりません。しかし、新しく始めるならできるだけ必要なものが少ない時期が有利なのです。

では何も必要ないかと言えばそうではありません。大人としてはメリハリを効かして大切なところをしっかりと押さえた装備をしたいと思うわけです。例えば下着は身体環境を整えるカギになります。

汗をかくのは当然だとして、それをそのままにしておくと、頂上に着いてからあっという間に身体を冷やす結果になります。一旦冷えてしまうとその後の疲労感は3割増しに感じます。汗にしけった不快な状態は避けたいのです。

Tシャツでも良いようなものだけどと友人はつぶやきます。しかし、半袖のシャツは問題外。直射日光に前腕が赤くなり、ヤブ蚊の襲撃に防御する力がありません。すくなくとも長袖が必要です。

最近は汗を上手に排出して速乾するという高機能な下着がユニクロなどで販売されており、街中用のものを流用しています。考えてみれば、毎日の通勤電車の環境はちょっとした山よりハードですから機能的には充分なのでしょう。

学校の遠足の延長のように考えているのか、スニーカを履いて登る人がいます。しかし、スニーカで山に登るのは多くの問題があります。スニーカの底は薄過ぎて、砂利道のギャップを事細かに拾ってしまい、足が疲れてしまいます。また足首を捻挫するリスクも高いです。

かといって本格的な登山靴は重すぎてむしろ大変です。エベレストにでもアタックできる本格的な登山靴は格好良いのですが、手入れが大変な作業です。またどうしても頑丈さを優先させるために重量が大きくなり、初心者では歩き続けるのが大変でしょう。

従って靴は軽めの軽登山靴で、踝までをカバーするものが良いと思います。このレベルの軽登山靴はいろいろ開発されていて、完全防水で湿気を排出するような高機能なものがあり選択肢が多い。多少値段が張っても良いものを入手したいですね。

水筒は2つ用意して、1つは空の状態でバッグに入れておくとよいでしょう。山行きでは想像以上にのどが渇きます。だからといって喉の乾きを覚える度に自動販売機を探すのはあまりにも興ざめでしょう。メインの水筒の様子を見ながら予備の水筒を利用するのが便利です。

帽子には蒸れないハットを選びたいというと意外でしょうか?ですが国産の帽子は何故か蒸れが酷いです。蒸れ対策をしっかりと施したものを選びたい。ハットで頸側を隠すことで、熱射病を避ける効果があります。

最初の楽しみですよね。お弁当と行動食の両方が必要です。行動食はおやつではありません。ですから200円を超えても大丈夫。ハイキング程度のトレーニング段階で行動食の扱いをマスターしたいです。

地図とコンパスは一通りのもので充分でしょう。ただし本格的な国土地理院の地形図を入手して、地図を読む練習を兼ねるなら話は違ってきます。しっかりとしたコンパスを用意して、その場に臨むように心がけましょう。

その他、小銭入れと財布とを分けて持ち歩くのは日常と同じ要領です。折りたたみの傘は使い捨て感覚でよろしい。高価な折りたたみを持って行くと後悔を持ち帰ることになりかねません。上着は派手な色の撥水加工のウィンドウブレーカが一番。そして忘れず杖を持って行きましょう。

東京都内から電車をいくつか乗り継いで武蔵御嶽山まで出かけてみませんか?何度か山に登って脚力に不安がなくなっていれば、次に挑戦する山として適切な山だと思うのです。

青梅市はれっきとした東京都の市のはず。でも車窓から望む風景はのどかという言葉がふさわしい。車内も都内とは思えない感じを漂わせています。荷物のバックパックを足下に置いても誰もとがめない、のんびりした空気感のなか目的地の駅に到着します。

駅舎を出ると熊注意の看板がありました。ここは本当に東京か?と思うのはこの辺りからかも知れませんね。ケーブルカーの乗り場までバスで向かいます。ここからケーブルカーを使えば初心者でも楽に御嶽山を楽しめるでしょう。

徒歩で挑戦するなら登山口である御嶽駅から標準時間233分で標高929mを相手にすることになります。決して難易度の高いコースではなく、コースは舗装が完了しているため、道に迷う心配もないでしょう。

この山は犬の山ということになっています?山頂の神社も参道の食事処も犬連れ可能です。お犬様信仰に基づいているため、犬は神様のお使いとして扱われているようで、手水も犬の使用を前提にした作りになっていました。

それなりに奥地でもあり、日帰りはもったいないかも?宿坊があって宿泊可能です。前もって予約を入れておく方が良いでしょうが、季節的な問題がなければ、当日に直接訪ねても宿は見つけられそうです。

私が使った宿の門には古くて大きな木があり、そこにムササビが住んでいました。ムササビは夜行性だそうで、夕方以降なら姿も見れると宿の主がおっしゃっていました。宿のほんの周辺で自然溢れる森林浴もできる環境です。

山頂の周囲の道を歩き回って、山のパワーをしっかり吸収しましょう!それでも足りなければ、滝行などで修験道プチ体験が可能だそうです。宿のいくつかは本格的な修行の衣装も用意しており、特別な用意をしていかなくても良さそうです。

本格的な山岳修験道が残っているパワースポットなのです。東京の西部には江戸以前から山岳修験道の道場がいくつも開かれてきた歴史があります。そのような霊場が時代を超えて現代にも生き残っているとは驚かされます。

山頂に広がる商店街がレトロ感たっぷりです。山頂の参道は路地のような道が巡らされていて、小さな迷路のような感じになっています。道の両脇に食堂や土産物店が続いており、異世界のようです。

そのような食堂の一件に限定食の鹿肉カレーライスがありました。鹿肉は牛肉よりスジが少なく、肉の風味に癖がありません。肉食が好きな人なら、牛肉より美味しいとわかるでしょう。その鹿肉のカレーライスがラッキーなら食べれます。

ケーブルカーを使って頂上まで登れば、神社まで急な上り坂はたった2カ所のみです。お年寄りが乳母車を押して登っていたり、登山と言うにはあまりにも生活感が濃厚な道です。やはり修験道の参詣地だと理解した方がしっくりきます。

上りは参道を登って山頂を目指したとしても、帰りはケーブルカーがお薦めな理由は疲れを残さないためです。下り坂は膝の負担が大きすぎるように思います。足を前に出すのは楽ですが、負荷は非常に大きく膝を痛める結果になります。

この記事を書いているとき、ここで遭難者が出たというニュースで驚きました。ニュースを見て、一体どこで遭難するんだろうと不思議に思ったりしましたが、山の中では方向感覚がズレてしまうことも考えられます。また霊山であればなおその傾向が強いでしょう。

実際ここまでくれば非日常の世界です。都心で歩き回るのとは違ったストレスにさらされます。そのストレスを良いものにするのは自分次第です。

このページのトップヘ